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Vol.2 日本の地方

日本の地方

 日本では東京は「中央」で、それ以外はみな「地方」である。高度経済成長以降、東京は巨大な磁石のように、地方からあらゆるものを引き寄せてきた。 ...

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Worth Sharing Vol.2

Vol.2 Worth Sharing (全48頁)PDF:4.31MB

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 日本では東京は「中央」で、それ以外はみな「地方」である。高度経済成長以降、東京は巨大な磁石のように、地方からあらゆるものを引き寄せてきた。一極集中は単に産業活動に限られたものではない。政治や文化活動もまた東京を中心に集約されてきた。そのような時代的、社会的な文脈の中で、文学にあらわれた地方は、かつて二重の象徴的な意味を持っていた。歴史や伝統、美しい風土や純朴な気風を連想させる一方、因習や停滞、あるいは偏狭な愛郷心や地域の疲弊とともに語られることもあった。かりに地方は都市化に対する抵抗の隠喩であるならば、故郷脱出は閉鎖性からの逃走を含意するであろう。

 ポスト工業時代に入ると、人口移動は安定化し、地方でも都市化が進んだ。程度の差こそあれ、中心対周縁という構図は地方でも再生産されている。暮らしのユートピアという郷愁神話はもはや崩壊した。僻地や山間部はいまや疲弊を通り越し、過疎化によって美化の対象にもなりにくくなっている。

 今日、地方を舞台とする作品は必ずしも東京に対抗し、理想的な生活空間を暗示するものではない。むしろ、多様化する生き方の舞台として言及されることが多い。かりに、地方だけで文学活動をし、地域の読者しか読まない作品を地方文学であるとすれば、そのような地方文学はすでに存在しない。一部の地域では地方文学について語るとき、作家の出身地を基準にしているが、そのような分類はほとんど文学的な意味
を持たない。

 本リストの選定は、そのような文化的な経緯を念頭に入れて行われている。また、作品が書かれた時期は、比較的広く設定されている。作品選びは作家の出身地ではなく、作品の内容にもとづいている。地域の生活を描く小説もあれば、地方を舞台とする小説もある。あるいは地方論のパロディや、方言の魅力を文学的な精錬を通して表現した作品もある。さらには地域の歴史を取材したものや、地方が直面する問題をテー
マにするものもある。

 選ばれた20作のうち、小説は全部で18作にのぼる。大半はここ10年来のものだが、初版1968年のもの一点と、1980年代に刊行された作品は三点含められている。いずれも海外の翻訳がほとんどなく、構想や文体あるいは描き方が独創的で、今日読んでも色あせない作品ばかりだ。小説のほか、優れたノンフィクションや、地方を民俗学的観点から考察した作品がそれぞれ一点選ばれている。むろん、限られた紙しふく幅で優れた作品をすべて網羅することは難しい。本リストを通して現代の日本文学にあらわれた地方の一端を海外の読者にお伝えすることができれば、選者としてこれよりうれしいことはない。

2013年7月
張 競(明治大学教授)

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作品紹介

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