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東北

馬たちよ、それでも光は無垢で

古川 日出男

新潮社(新潮文庫)/2018年/155ページ/本体440円/ISBN 978-4-10-130536-3

本作品はアルバニア語、英語、フランス語に翻訳されています。

 古川日出男の中篇小説「馬たちよ、それでも光は無垢で」は、2011年3月の東日本大震災とそのために福島で引き起こされた原発事故に対する、日本の小説家の初めての本格的な応答のひとつとして注目される。著者は福島原発から遠くない、同じ福島県の郡山市の出身であっただけに、自分の故郷がどうなったか心配になり、2011年4月上旬に、「自殺衝動」に駆られるかのように、編集者たちとともに福島県の原発周辺の地域を訪れた。この作品は、その見聞を記録した一種の紀行文なのだが、書き方は単線的ではなく複雑である。大災害の後の「神隠しの時間」に巻き込まれたかのように、時間は歪んだり行ったり来たりし、やがて古川が以前、東北6県を舞台に繰り広げた超大作『聖家族』のフィクション中の主人公が現れて視察する一行の車に加わって新たな「物語」を紡ごうとする一方で、作家は連休には日本を離れてニューヨークで華やかな文学イベントに参加し、そこでグラウンドゼロを眺めながら、9/11事件を大震災に重ね合わせる。そして、原発事故後の現代の福島の光景と、長年の伝統を持つ相馬野馬追の美しいイメージが重ね合わされる。混乱した状況のリアルなレポートを書くには、おそらくこういうスタイルしかなかったのだろう。(NM)
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古川 日出男

古川 日出男

1966年福島県生まれ。2008年メガノベル『聖家族』を刊行。『女たち三百人の裏切りの書』で2015年に第37回野間文芸新人賞、2016年に第67回読売文学賞を受賞。他の作品に『舗装道路の消えた世界』『南無ロックンロール二十一部経』『あるいは修羅の十億年』など。

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