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蕎麦ときしめん

清水 義範

講談社(講談社文庫)/1989年/227ページ/本体448円/ISBN 978-4-06- 184542-8

翻訳出版はありません。

 この小説は名古屋人論という「論文」の形式を取っており、ふつうの小説と違って主要な登場人物はない。エピソードは次から次へ出てくるが、首尾一貫した筋もない。

 最大の特徴は、名古屋という地方都市の気風と人びとの行動様式を、知的な諧謔をまじえて、誇張的に描くことである。そのことはむろん作家が名古屋の出身ということと不可分な関係がある。

 文学作品の中で、地方は愛郷心とともに語られることが多い。その場合、故郷の美しい風景はたんなる無機質の自然ではなく、個人の思いや心情が込められたイメージであり、優れて情緒化された想念である。そのため、郷土としての「地方」はつねに個人の生長と感情とともに記憶され、しばしば美化された過去として想起される。

 同じ郷土愛でも、甘美な懐旧の情や、感傷的な追憶として描かれるばかりとは限らない。地方を揶揄し、諷刺し、あるいはユーモアのあふれる筆致で描かれる場合もある。それがかえって作家とその生まれ育った土地との情緒的なつながりの緊密さを物語ることもある。この小説はそのような空前絶後の冒険を成功させた作品である。

 笑いに包まれた郷土批評には多くの真実と誇張が入りまじっているからこそ魅力がある。この小説はたんなる名古屋という一地方の批評にとどまらず、日本人論の縮小版としても読める。さらにいえば、世界の多くの都市にも当てはまるかもしれない。

 作家の清水義範はパスティーシュ(模倣)小説の名手で、現代の日本文学でも稀有な存在である。外国語に翻訳するには多くの困難が予想されるが、それだけ挑戦に値する作家でもある。(CK)
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清水 義範

清水 義範

1947年愛知県生まれ。『蕎麦ときしめん』『永遠のジャック&ベティ』などでパスティーシュの手法を用いて話題になる。1988年『国語入試問題 必勝法』で吉川英治文学新人賞を受賞。『飛びすぎる教室』『ドン・キホーテの末裔』『早わかり世界の文学』など著書多数。

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