
近畿
告白
中央公論新社(中公文庫)/2008年/850ページ/本体1143円/ISBN 978-4-12-204969-7
本作品は韓国語に翻訳されています。
町田康はパンクロック歌手から小説家に転身するという異色の経歴の持ち主だが、いまや現代日本小説の新しい可能性を切り開く、もっとも重要な作家の一人と目されている。『告白』はその彼が、本格的な長編作家としての力量を示した注目すべき作 品である。
『告白』の主人公は、1893年に「河内十人斬り」事件を起こした悪名高い殺人犯、 熊太郎という実在の人物である。小説はその彼の心理と行動を生い立ちから悲劇的な最期に至るまで追求したもので、史実や時代背景を踏まえてはいるが、普通の意味での歴史・伝記小説ではない。全編を貫いているのは、意外にも、思考と言語表現のずれというテーマである。貧しい農民の子に生まれながら極度に思弁的だった熊太郎は、一生を通じて、自分の思考を表現する言語を持たないことに悩まされ続ける。
そして小説は熊太郎の日常語である河内弁を駆使しながら、主人公の心理と言葉に肉薄する文章の奔流をえんえんと繰り広げる。町田康の文体には稀有のリズム感覚が備わっており、河内弁と標準語の絶妙の混交、漫才のように可笑しなかけあいや、鋭く的を射た人間観察などが織り成すテキストは、読者を最後まで放すことがないだろう。(NM)
『告白』の主人公は、1893年に「河内十人斬り」事件を起こした悪名高い殺人犯、 熊太郎という実在の人物である。小説はその彼の心理と行動を生い立ちから悲劇的な最期に至るまで追求したもので、史実や時代背景を踏まえてはいるが、普通の意味での歴史・伝記小説ではない。全編を貫いているのは、意外にも、思考と言語表現のずれというテーマである。貧しい農民の子に生まれながら極度に思弁的だった熊太郎は、一生を通じて、自分の思考を表現する言語を持たないことに悩まされ続ける。
そして小説は熊太郎の日常語である河内弁を駆使しながら、主人公の心理と言葉に肉薄する文章の奔流をえんえんと繰り広げる。町田康の文体には稀有のリズム感覚が備わっており、河内弁と標準語の絶妙の混交、漫才のように可笑しなかけあいや、鋭く的を射た人間観察などが織り成すテキストは、読者を最後まで放すことがないだろう。(NM)

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