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『共喰い』の表紙画像

中国

共喰い

田中 慎弥

集英社(集英社文庫)/2013年/205ページ/本体420円/ISBN 978-4-08-745023-1

本作品は韓国語に現在翻訳中。

 17歳になる篠垣遠馬は、父の円とその内縁の妻・琴子と三人暮らし。父は性行為のときに女を出血させるほど殴ったり、首を絞めつけたりする性癖がある。遠馬の実の母・仁子は夫の暴力に耐えられず、遠馬の後に妊娠した二人目の子を堕胎し、円のもとを去った。

 独り暮らしをしている仁子は遠馬の家からそう遠くないところで魚屋を営んでいる。彼女は空襲で右手を失い、義手を使って魚をさばいている。仁子のところに魚をもらいに行ったり、食事をしたりしている遠馬は、仁子から父親のことをよく耳にし、彼は父のことを生理的に嫌っていながらも、自分も父と同じようになるのではないかと怯えている。不安は不幸にも的中し、恋人の千種との性交中に衝動的に彼女の顔を殴った。遠馬がすっかり自己嫌悪で落ち込んでいるとき、琴子は妊娠したのをきっかけに円と手を切ることを決心する。狂乱した円は偶然、神社の境内で待っていた千種に出会い、彼女を暴行してしまう。仁子は父殺しをしようする遠馬を止め、自らの手で円を殺した。

 一見、性と暴力の満ちたグロテスクで非条理な世界のようだが、豊かな文体と、幻想とも現実とも区別がつかないような情景描写によって、独特の雰囲気と芸術的な香りを醸し出している。山口県下関市と思しき街が作品の舞台になっているのも、血縁の深み、抗しがたい運命に直面する少年の生を捉えるのに効果的である。人間関係の濃密さと、それゆえの息苦しさのあいだで揺れ動く主人公の心が、閉塞感とともに痛々しく描き出されているところが新鮮である。(CK)
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田中 慎弥

田中 慎弥

1972年山口県生まれ。2005年「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞受賞。2008年「蛹」で第34回川端康成文学賞を受賞、同年に作品集『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞受賞。2012年、「共喰い」で第146回芥川賞を受賞。「共喰い」は2013年に映画化。著書に『美しい国への旅』他。

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