
近畿
ある一日
新潮社(新潮文庫)/2014年/141ページ/本体400円/ISBN 978-4-10-106932-6
翻訳出版はありません。
『ある一日』は、この作家の未知の面を示していて驚かされた。いしいといえば、非現実的なファンタジーないしメルヘン的な世界を描く名手としてしられているからだ。今回の作品は、作家自身とその妻とおぼしき夫婦の姿を、私小説的に描いたものだ。もっとも、日常生活を描きながらも、想像力はさまざまな方面に自由に逸脱していく。ウナギの産卵や八重山諸島や中南米など、世界のさまざまな場所に自由に思いを馳せながら、キノコやカエルの不思議なイメージをちりばめ、日常をファンタジー風に写し出すという書き方になっている。また食べ物に関するディテールも豊富で、マツタケやハモといった伝統的な日本の食材を調理して食べる場面の描写は絶妙である。
作品の後半は,京都の産院での壮絶な出産の記録となる。妻は43歳で初産なのに、自然分娩を強く希望したからだ。出産は基本的な生の営みであるにもかかわらず、現代日本文学がそれを正面から扱うことはめったにない。その意味で、いしいの作品は貴重な試みといえるだろう。彼は私小説的な体験記の域を超え、生まれてくる直前の胎児が「いきもの」として胎内で動き、感ずる様を想像力豊かに描くことにも成功した。(NM)
作品の後半は,京都の産院での壮絶な出産の記録となる。妻は43歳で初産なのに、自然分娩を強く希望したからだ。出産は基本的な生の営みであるにもかかわらず、現代日本文学がそれを正面から扱うことはめったにない。その意味で、いしいの作品は貴重な試みといえるだろう。彼は私小説的な体験記の域を超え、生まれてくる直前の胎児が「いきもの」として胎内で動き、感ずる様を想像力豊かに描くことにも成功した。(NM)

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