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『沈むフランシス』の表紙画像

北海道

沈むフランシス

松家 仁之

新潮社/2013年/186ページ/本体1400円/ISBN 978-4-10-332812-4

本作品は、韓国語に現在翻訳中。

 東京で働いていた女性が、同居していた男と別れたことをきっかけに会社を辞め、思い切って北海道に住居を移す。そして人口800人ほどの小さな村の郵便局に職を見つけ、働き始める。中学生の頃、北海道で暮らした経験を持つ彼女の心には、30代半ばになっても、かつて山道でエゾシカと鉢合わせしたり、草むらでキツネの子供たちが遊ぶ様子を見たりした思い出が消えずに残っており、かの地への憧れが脈打っていた。

 ある日彼女は、郵便配達先で、一人暮らしと思しい中年男性と知りあい、好感を抱き、深い仲になる。やがてわかったのは、男が「フランシス」の世話をして暮らしているということだった。村に電力を供給する、フランシス・タービンによる水力発電の水車小屋が家の裏の川辺にあり、その管理を仕事にしていたのである。美しく爽やかな自然の中での、男との充実した恋愛の日々は、やがて男の背後に複数の女の影がちらつき出すことで乱され始める。

 そして夏の終わり、台風によって川が増水し、「フランシス」は沈没の危機に見舞われる。だがその危機の中で、ヒロインは人生に対するひとつの啓示を得る。松家はデビュー作『火山のふもとで』で、通常ベテラン作家に与えられる読売文学賞を受賞して驚かせた。彼の喚起力豊かな、ときに村上春樹を思わせる文章の力は、この第二作でいよいよ磨き上げられ、北の大地のふところで演じられる男女のドラマを鮮烈に描き出している。(NK)
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松家 仁之

松家 仁之

1958年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者を経て、2012 年、長篇小説『火山のふもとで』でデビュー。2013年、同作により読売文学賞受賞。

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