東北
光の山
新潮社(新潮文庫)/2016年/210ページ/本体460円/ISBN 978-4-10- 116657-5
本作品はフランス語、韓国語に翻訳されています。
芥川賞を受賞後も福島県三春町の生家、福聚寺の住職を続けていた作者は、2011年3月11日、福島第一原発から50キロ圏内にあるその地で被災。直後の東日本大震災復興構想会議では委員に選ばれ、全国各地で講演活動も行ってきた。
<しかし因業なことに、やはり私は放射線量にかかわらず呼吸しつづけるように、小説を書かないでは暮らせなかった>。そうして生み出されたあの日から2年間の、状況の推移を克明に映し出した6編の収録作は、どんな映像、報道より被災地・福島に生きる人間の真実を凝縮し、同時に、この震災の悲劇全体を見渡すことを可能にしている。
津波に襲われ、家族を亡くして以来、湯飲みのお茶も怖くて飲めなくなった若い娘。身元不明の夫の遺体を捜す妻と幼児、その母子に対応する安置所の係官も、実は娘と孫を亡くしていた……。被爆を恐れて北海道に逃れたまま、避難所暮らしを選んだ夫と離婚を決意する若い妻、彼女に複雑な思いを抱きながら現地で暮らし続ける旧友夫婦も登場する。無論、こうした個別の不幸を紹介するために小説が書かれたのではない。震災は彼らから本当は何を奪い去ったのか、それは回復可能なものなのか。彼らはこの先、どんなふうに生きていけばよいのか。人間の命とは何か。読む者に鋭い問いを突き付けながら、それでもどこかに慈愛の光が差しているのは、僧侶としての作者の徳、東北の人びとが今も保つ心根の美しさゆえだろう。(OM)
<しかし因業なことに、やはり私は放射線量にかかわらず呼吸しつづけるように、小説を書かないでは暮らせなかった>。そうして生み出されたあの日から2年間の、状況の推移を克明に映し出した6編の収録作は、どんな映像、報道より被災地・福島に生きる人間の真実を凝縮し、同時に、この震災の悲劇全体を見渡すことを可能にしている。
津波に襲われ、家族を亡くして以来、湯飲みのお茶も怖くて飲めなくなった若い娘。身元不明の夫の遺体を捜す妻と幼児、その母子に対応する安置所の係官も、実は娘と孫を亡くしていた……。被爆を恐れて北海道に逃れたまま、避難所暮らしを選んだ夫と離婚を決意する若い妻、彼女に複雑な思いを抱きながら現地で暮らし続ける旧友夫婦も登場する。無論、こうした個別の不幸を紹介するために小説が書かれたのではない。震災は彼らから本当は何を奪い去ったのか、それは回復可能なものなのか。彼らはこの先、どんなふうに生きていけばよいのか。人間の命とは何か。読む者に鋭い問いを突き付けながら、それでもどこかに慈愛の光が差しているのは、僧侶としての作者の徳、東北の人びとが今も保つ心根の美しさゆえだろう。(OM)
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