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九州

爆心

青来 有一

文藝春秋(文春文庫)/2010年/336ページ/本体619円/ISBN 978-4-16-768502-7

本作品は英語、ドイツ語に翻訳されています。

 青来有一の作品は、ほとんどすべてが長崎を舞台にしている。しかし彼が「長崎の作家」であるという場合、さらに二つ、はっきりした理由がある。ひとつは、1945年 8月9日の長崎への原爆投下という悲劇の記憶を、作品の中で受け継いでいること(青来の両親は被爆者だが、彼自身は戦後生まれで、原爆投下の惨劇を自分で目撃したわけではない)。そして、もうひとつは、彼が「隠れキリシタン」の伝統を強く意識していることである。日本では16世紀後半以来、フランシスコ・ザビエルなどの宣教を通じてキリスト教徒が増えていったが、江戸時代にキリスト教は幕府によって禁止された。しかし、長崎とその周辺では、多くの人びとが迫害を受けながらも、「隠れキリシタン」として密かに信仰を守り続けたのだった。『爆心』という短編集にも、これら二つの特徴がくっきりと出ている。ここに収められた6つの作品はいずれも現代の長崎を舞台にしたもので、被爆体験やキリシタン信仰が直接語られるわけではない。ここに登場するのは、妄想にとりつかれて愛する妻を殺してしまう男、会った女性に次々に惚れ込む知的障害者、青年との不倫の愛にふける人妻など、それぞれ問題を抱えながら現代の長崎に生きる市井の人びとである。しかし、どの作品でも土地の記憶のようなものがふっと甦る瞬間があり、それが長崎の現在に絡み合うことによって、独自の「ポスト原爆文学」の世界を作りだしている。(NM)
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青来 有一

青来 有一

1958年長崎県生まれ。1995年「ジェロニモの十字架」 で文學界新人賞、2001年「聖水」で第124回芥川賞を受賞した。2007年『爆心』で第43回谷崎潤一郎賞、第18回伊藤整文学賞受賞。その他の著作に『月夜見の島』『眼球の毛』がある。

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