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Vol.1 日本の青春

日本の青春

 文学は常に若者たちとともにある。若者の姿を描き、若者たちに語りかけ、若者たちとともに喜び、苦しみ、そして未来を考える。若者たちこそは、社会 ...

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Worth Sharing Vol.1

Vol.1 Worth Sharing (全48頁)PDF:3.23MB

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 文学は常に若者たちとともにある。若者の姿を描き、若者たちに語りかけ、若者たちとともに喜び、苦しみ、そして未来を考える。若者たちこそは、社会の未来である。ある国の未来は、その文学によって生き生きと描きだされた若者の姿によって占うことができると言っても過言ではないだろう。私たちは日本に関心を持つ世界の読者のために、小説を中心に、ここにさまざまな現代日本の若者の姿を鮮やかに描き出した本を20冊厳選した。ここには明るく楽しい青春だけでなく、悩み多き不安に満ちた青春もある。しかし、それらの光と影のすべてが交錯しながら、現代日本文学の興味深く魅力的な風景を作り出していることは確かだろう。

 小説が描き出す若者たちの姿は、実際、あまりに多様であって、「ひとつの日本」に像を結ぶことは難しいかもしれない。若者である以上、当然、風俗の最先端に位置している。ロックバンド活動や運動部の活動に熱中する中高生もいれば、渋谷や池袋といった都会文化の発信地に依拠する若者たちもいる。日本から外へ、はるかネパールまで冒険の旅に出る子供もいれば、日本の地方都市で育ち、恋愛をし、若くして死んでいく若者たちもいる。現代の東京で春夏秋冬の移ろいとともに、静かに生きる若い女性の充実した現在の瞬間を見据えた作品もあれば、現代日本から世代を過去にさかのぼって祖父母の満州体験にまで行き着く歴史的ビジョンを持った作品もある。「いじめ」に苦しむ中学生もいれば、日本と韓国の間で自分のアイデンティティを求めて揺れる在日韓国人の女性もいる。

 またこのブックリストには、小説の他に、若者が直面する現代の社会問題や、若者の現代的な価値観や美意識を論じた研究書や評論を6冊加えた。「格差社会」「ワーキングプア」「婚活」「恋愛観」「<かわいい>の美学」といった切り口を通じて、いまの日本の若者たちが何に悩み、何をよりどころにして、何を目指して生きているのか、くっきりと見えてくるに違いない。

 これらの本が示しているのは、一握りのベストセラー小説からだけではうかがい知ることのできない、現代日本のさまざまな青春の形である。それはとりもなおさず、いまの日本がどのような国であるかを、その多面性において示すものであり、現代の日本のことを――そして、さまざまな矛盾と問題を孕はらみながらも、底知れない文化的な活力を持つこの国の可能性を――本当に知りたいならば、どうかこれらの本を読んでいただきたい、と私たちは切に願う。

2012年11月
沼野 充義 (東京大学教授)

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作品紹介

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