
小説
何もかも憂鬱な夜に
集英社(集英社文庫)/2012年/200ページ/本体400円/ISBN 978-4-08-746798-7
初出:「すばる」2008年11月号
本作品は中国語、韓国語、スペイン語に翻訳されています。
中村文則はデビュー以来、現代日本の若手作家には珍しく、一貫して、犯罪、殺人、自殺、児童虐待とネグレクト、といった現代社会をむしばむ暗い主題を追求してきた。彼の新しい長編『何もかも憂鬱な夜に』のテーマもまた、極めて重い。主人公は地方の拘置所に勤務する若い刑務官で、毎日、犯罪者たちと向きあっている。彼自身、孤児として養護施設で育ち、自殺しようとした暗い過去を持つが、人徳ある「施設長」の感化のおかげで生きる希望を見いだして、今日までやってくることができた。しかし、彼の友人は「何もかも憂鬱な夜に」という言葉を残して自殺してしまった。拘置所で主人公が心配しているのは、控訴しようともせずにむざむざ死刑が確定することを待っている、まだ未成年の殺人犯のことだ。彼はどうして控訴しようとしないのか、彼は死刑になるべきなのか、そもそも死刑などというものがあっていいのか。こういった容易に解決できない問題に、主人公は直面して悩む。この作品が発表された翌年の2009年、日本では裁判員制度が新たに導入され、裁判や量刑のあり方に関する意識が高まり、死刑制度の是非そのものについても議論が盛んになった。そういった社会の動静を背景に、この小説は単に文学的という以上の重みを持っている。(NM)

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