小説
学問
新潮社(新潮文庫)/2012年/384ページ/本体630円/ISBN 978-4-10-103626-7
初出:「新潮」2008年9月号、11月号、2009年1月号、4月号
本作品は韓国語に翻訳されています。
小説らしからぬタイトルの本だが、静岡県の地方都市を舞台とした純然たる小説である。主な登場人物は、皆1962年生まれの仲のいい4人。彼らが幼年時代から思春期を経て成長し、恋愛とセックスを経験し、大人への入り口に近づいていく様子を、4つの章でそれぞれ違う4つの時点(小学校2年、小学校5年、中学校2年、高校1年)に焦点を当てながら描き出していく。地方都市を舞台としたノスタルジックな雰囲気と、主人公たちに注ぐ作者の暖かいまなざしがなんとも魅力的である。興味深いのは、各章の冒頭に(第4章だけは最後に)登場人物の未来の死を報ずる雑誌記事が掲げられているということで、人は皆死ぬものだという厳しい前提を枠として、成長の物語がいっそう輝きを増す。タイトルの「学問」gakumonとはおそらくlearningくらいにしか英訳できない単語だが、日本語ではそれより厳かで堅いニュアンスを持ち、小説の表題にすることなど普通はとても考えられない。作者はおそらく、欲望という「得体の知れないもの」を学び、欲望の「愛弟子」として成長していく若者たちの生き方そのものを、「gakumon」と呼んだのだろう。意表をつくタイトルだが非常に印象的で、若者たちのひたむきな生の叙情性と官能性が交錯するこの小説世界をよく表している。(NM)
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