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恋愛

なめらかで熱くて甘苦しくて

川上 弘美

新潮社(新潮文庫)/2020年/223ページ/本体460円/ISBN 978-4-10-129243-4

本作品はイタリア語に現在翻訳中。

 5つの短編からなる連作集で、簡潔に「aqua(水)」「terra(土)」「aer(空気)」「ignis(火)」「mundus(世界)」とラテン語で名づけられている。最初の作品「aqua」では、思春期の少女たちの性の目覚めや友人関係を通じて、大きく不可解な世界に向き合おうとする多感な少女たちのヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)が浮き彫りになる。二番目の「terra」では、女子大学生の「わたし」の生を、友人の恋人の死を鏡にしながら映し出していく。三番目の「aer」は、一転して、初めて子供を産む女の視点からの語りである。第四の「ignis」は、30年以上も同棲を続けてきた「わたし」と青木という男の関係を描きながら、日本の古典『伊勢物語』の世界に通じていく。

 そして、最後の「mundus」は、連作中もっとも謎めいた、そしてもっとも興味深い作品である。マジック・リアリズム的世界を彷彿とさせるような、奇怪な出来事と逸話に満ちたこの作品の世界では、主人公に正体不明の「それ」と呼ばれるものが一貫してつきまとっている。「なめらかで熱くて甘苦し」いと表現される「それ」とは、結局のところ、愛のことなのかもしれない。

 川上弘美は、古代ギリシャ哲学や仏教思想で世界を構成する元素であるとされる「四大」という神話的自然力の枠を使いながら、言葉によってもう一つの世界を創造するデミウルゴスになることをここで試みているのである。(NM)
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川上 弘美

川上 弘美

1958年東京都生まれ。中学・高校の生物教師を経て執筆活動に入る。1994年短編「神様」でパスカル短篇文学新人賞、1996年「蛇を踏む」で芥川賞を受賞。谷崎潤一郎賞を受賞した2001年『センセイの鞄』は2012年マン・アジア文学賞および2014年インディペンデント外国小説賞の最終候補となる。

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