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恋愛

ふくわらい

西 加奈子

朝日新聞出版/2012年/260ページ/本体1500円/ISBN 978-4-02-250998-7

本作品は中国語(繁体字)に翻訳されています。

 主人公の25歳の女性の名は、鳴木戸定という。マルキ・ド・サドをもじって命名した父、栄蔵は世界中を探検し、禁忌を犯すというグロテスクの極みのような体験を求めた作家であり、定も父との旅に同行しながら育った。そのせいか、出版社で書籍編集者になって、プロレスラーや盲目の作家を担当するようになってからも、<自分と人との間に、透明のぶあついガラス>があるようで、人付き合いは極めてぎこちない。仕事はできるが周囲からは変人と見なされ、恋愛体験もまだない。

 「ふくわらい」という、目隠しをして、目、鼻、口、眉毛など、顔のパーツを並べて顔を再構成する古来の遊びが、定は子供の頃からたまらなく好きだった。生身の人間を見るときも、美醜ではなく、バランスが悪く、面白い人間のほうが好き。編集者になったのも、文字というパーツの無限の組み合わせで文章が、そして作品が出来上がる「言葉」というものが好きなのだった。

 この長編小説は、そんな定のたぐいまれなるイノセンス――それは一つ間違えば、怪物のようにグロテスクな側面もはらんでいるのだが――という個性を損なうことなく、他人と喜びを共有し、愛を感受するに至る、いささか遅咲きの成長物語である。無機的な感情に閉じこもっていた定は、どのようにして有機的な「恋」という感情を開くに至るのか。

 第一回河合隼雄物語賞にふさわしい、ユニークで伸びやかな快作だ。(OM)
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西 加奈子の著者画像

西 加奈子

西 加奈子

1977年イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年『あおい』でデビュー。2005年『さくら』が26万部を超えるベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。他に『舞台』『サラバ!』など。

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