
小説
抱く女
新潮社/2015年/287ページ/本体1500円/ISBN 978-4-10-466704-8
本作品は韓国語に現在翻訳中。
この小説は全共闘運動が下火になった1972年を舞台にしている。主人公の直子は都内の大学に通う大学生。彼女は学生運動に距離を置いていたが、かといって、何かめざす目標があるわけではない。大学にはろくに行かず、雀荘やジャズ喫茶に入りびたっている。たばこを吸い、酒を飲む。気の向くままに周囲の男たちと付き合う。
ただ、直子が取った行動はある信念に基づいている。当時、女性に対する差別をなくし、男性と同等の権利をめざす意識が台頭していた。作品名の『抱く女』はときのスローガンだった「抱かれる女から抱く女へ」を踏まえたものである。直子はこの理念に共感し、大学生の生活半径の中で自ら実行しようと試みた。一見、派手そうに見える男性関係もその現れである。
しかし、現実は直子が想像したほど甘くない。複数の男性と性関係を持つことで、彼女は「公衆便所」と陰口を叩かれ、男たちに見くびられていった。それを知った直子は傷心し、女性差別の根の深さを改めて思い知らされた。
70年代の学生運動については、これまで歴史的な叙述はもちろん、ノンフィクションや文学作品の中でも描かれてきた。また、数少ないとはいえ当事者たちの回想録も刊行されている。この小説は運動そのものではなく、その周辺にいる女性を描いたところに特徴がある。左翼学生運動が低調になってからの、若者の苦悶ややるせなさが、投げやりな生活を通して生き生きと描き出されている。(CK)
ただ、直子が取った行動はある信念に基づいている。当時、女性に対する差別をなくし、男性と同等の権利をめざす意識が台頭していた。作品名の『抱く女』はときのスローガンだった「抱かれる女から抱く女へ」を踏まえたものである。直子はこの理念に共感し、大学生の生活半径の中で自ら実行しようと試みた。一見、派手そうに見える男性関係もその現れである。
しかし、現実は直子が想像したほど甘くない。複数の男性と性関係を持つことで、彼女は「公衆便所」と陰口を叩かれ、男たちに見くびられていった。それを知った直子は傷心し、女性差別の根の深さを改めて思い知らされた。
70年代の学生運動については、これまで歴史的な叙述はもちろん、ノンフィクションや文学作品の中でも描かれてきた。また、数少ないとはいえ当事者たちの回想録も刊行されている。この小説は運動そのものではなく、その周辺にいる女性を描いたところに特徴がある。左翼学生運動が低調になってからの、若者の苦悶ややるせなさが、投げやりな生活を通して生き生きと描き出されている。(CK)

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