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小説

東京自叙伝

奥泉 光

集英社/2014年/432ページ/本体1800円/ISBN 978-4-08-771559-0

翻訳出版はありません。

 この小説の主人公は東京、そして語り手も東京である。そんな小説がこれまでにあっただろうか? より正確にいえば、主人公=語り手である「私」は東京の「地霊」であり、江戸城開城のはるか以前から今日まで、輪廻転生をくりかえしている。人間だけではなく動物に生まれ変わったこともあり、例えば明治の偉大な小説家にして『吾輩は猫である』の作者、夏目漱石(1867-1916)に飼われた猫は、じつは「私」だった。

 軍国主義時代から戦後の高度成長期、さらにはバブルのはじけた後も、「私」は次々に新たな命を獲得し歴史を生き抜く。だからといって「私」に深い英知や哲学を求めてはならない。何しろ、徹底した無責任、無反省が「私」の精神をつらぬいているのだ。「なるようにしかならぬ」が彼の「金科玉条」であり、同時に都市・東京、さらには東京を首都と仰ぐ日本の「主導的原理」なのである。

 饒舌で野放図なユーモアに満ちた「私」の語り口を楽しみつつ、読者はそこに潜む破滅への予感を感じ取るだろう。東京、そして日本はいずれ天変地異とともに滅び去るわけだから、あまり深刻に考えても仕方がない、と「私」はいいたいのである。その予感は、最終章に至って現実のものとなる。3.11のカタストロフとは、東京の将来の姿にほかならなかったのだ。巨大都市のたどる運命を、一個の痛快にして悲壮なピカレスクロマンに仕立てる。そんな離れ業に作者は挑み、瞠目すべき成果を挙げている。(NK)
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奥泉 光

奥泉光

1956年生まれ。近畿大学文芸学部教授。1994年『石の来歴』で芥川賞、2009年『神器―軍艦「橿原」殺人事件』で野間文芸賞、2014年『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞を受賞。

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