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『逝きし世の面影』の表紙画像

文化・歴史

逝きし世の面影

渡辺 京二

平凡社(平凡社ライブラリー)/2005年/606ページ/本体1900円/ISBN 978-4-582-76552-6

本作品は中国語(簡体字)、英語に翻訳されています。

 幕末から明治時代にかけて来日した西洋人が書いた日本見聞記、旅行記の類は膨大な数にのぼるが、いまではあまり顧みられることがない。本書の著者、渡辺京二はその膨大な資料の山に分け入り、大きな発見をした。これらの外国人が見た日本は、西洋とは異なる見事な文明を達成していたのであって、彼らの多くが日本と西洋とのあまりの違いに当惑しながらも、その素晴らしさを絶賛していたということだ。しかし、明治時代以降の近代化の過程において、その文明は死滅してしまった、というのが著者の診断である。

 外国人による初期の日本見聞記に対して、後の日本人の多くが否定的であったのは、サイードのいう「オリエンタリズム」的な現実離れしたものであるとか、あるいは否定されるべき過去を美化するものと考えたからである。しかし、渡辺氏は膨大な資料を綿密に読み込んだ上で、外国人の証言が実態に基づかない空虚なものではなかったことを力説し、そこから浮かび上がってくる「逝きし」日本文明の魅惑の数々を描き出す。

 人びとはたとえ貧しくとも陽気で豊かで平和な暮らしを送り、女たちは性に関しておおらかで、子供たちは大事にされている――もちろん美化もあるだろうが、それ以上に異文化に初めて触れた驚きがあり、古きよき日本の姿を浮き彫りにするのである。日本の近代化とはいったい何だったのか、考えるために新たな視点を与えてくれる貴重な一冊である。(NM)
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渡辺 京二

渡辺京二

1930年京都府生まれ。大連第一中学校、旧制第五高等学校文科を経て法政大学社会学部卒業。評論家。河合文化教育研究所主任研究員。1999年に『逝きし世の面影』で和辻哲郎文化賞を受賞。他に『北一輝』『黒船前夜』『幻影の明治』『父母の記』など。

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