
小説
巡礼
新潮社(新潮文庫)/2012年/289ページ/本体490円/ISBN 978-4-10-105417-9
本作品はフランス語に翻訳されています。
スマホと必要最小限の生活用品しか求めない、昨今の若いミニマリストからすれば、紙の本も流行の服も、はじめから不要なゴミに思えるのかもしれない。ところが一方では、モノを一切捨てずゴミ屋敷に立てこもる人びとの存在も、日本の社会は無視できなくなっている。
もし、モノを片づけてしまったら、<生きて来た時間が、「無意味」というものに変質して、消滅してしまう>。この長編の主人公は、そんな強迫観念にとりつかれた70代の男だ。多感な少年期に敗戦を迎え、東京郊外の荒物屋の跡取りとして無難な人生が続くはずだったこの男、忠市が、息子を亡くし、妻に家出され、高度成長期の終焉とともに家業が時代に取り残され、醜悪な現在に至る。その個人生活の経緯を、本作は東京郊外の戦後史と重ねながら掘り起こしていく。
家族も社会も、右肩上がりで成長しているうちは新陳代謝が滞ることはない。それが下落へ転じた途端、人間の情緒は揺らぎ、暮らしへの意欲はそがれる一方となり、ゴミは時代とともに流れ去ってはくれず、堆積し始める……。一人の男の破滅の物語は、近代の大衆消費社会の終焉に潜む問題を深くえぐり、示唆に富む。(OM)
もし、モノを片づけてしまったら、<生きて来た時間が、「無意味」というものに変質して、消滅してしまう>。この長編の主人公は、そんな強迫観念にとりつかれた70代の男だ。多感な少年期に敗戦を迎え、東京郊外の荒物屋の跡取りとして無難な人生が続くはずだったこの男、忠市が、息子を亡くし、妻に家出され、高度成長期の終焉とともに家業が時代に取り残され、醜悪な現在に至る。その個人生活の経緯を、本作は東京郊外の戦後史と重ねながら掘り起こしていく。
家族も社会も、右肩上がりで成長しているうちは新陳代謝が滞ることはない。それが下落へ転じた途端、人間の情緒は揺らぎ、暮らしへの意欲はそがれる一方となり、ゴミは時代とともに流れ去ってはくれず、堆積し始める……。一人の男の破滅の物語は、近代の大衆消費社会の終焉に潜む問題を深くえぐり、示唆に富む。(OM)

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