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小説

忘れられたワルツ

絲山 秋子

新潮社/2013年/182ページ/本体1300円/ISBN 978-4-10-466906-6

翻訳出版はありません。

 大学生の風花が実家に帰ると、ピアノを弾いていた姉は突然、奇妙なことを口にし、家を飛び出した。母は出張中で、父は自分の部屋に引きこもっている。夕食になると風花は出前寿司を頼み、父親と当たり障りのない会話をしながら一夕を過ごした。

 一見、どこにでもあるような平和な家庭だが、4人とも自分の世界に没頭している。テレビでコメンテーターをする母は全国を飛び回って講演をしており、消防士の父は趣味の外国語学習に精を出していた。姉は母親の浮気相手を捕まえようと必死になり、風花は神経性搔痒による強烈な痒みと格闘している。

 この作品に筋らしい筋はなく、日常生活の断片が無造作に並べられているが、その並べ方によって、冷たい風が吹き荒ぶ現代家族の風景が浮かび上がってくる。短編集に収められた7つの作品に共通するのは、薄氷の日常に潜む不気味さであり、いまにも壊れそうな平静さである。

 『イッツ・オンリー・トーク』で衝撃的なデビューを果たした絲山秋子は、現代日本のもっとも才能に溢れた作家の一人である。この短編集で試みられたのは小説の様式に対するきわどい挑戦である。前衛的な小説も含めて、作家たちはみな事件の推移の描写を通して物語を展開させ、芸術的な表現効果を追求しようとしている。だが、絲山秋子はあえて時間軸に沿った筋の仕組みを解体し、叙事性を超越した語りを通して、人間関係の危うさやコミュニケーションの難しさを捉えている。(CK)
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絲山 秋子

絲山秋子

1966年東京都生まれ。住宅設備機器メーカー勤務を経て小説家に。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞、2016年『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞。他に『ばかもの』『妻の超然』『末裔』『離陸』など。

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