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『俺俺』の表紙画像

さまざまな生活

俺俺

星野 智幸

新潮社(新潮文庫)/2013年/343ページ/本体550円/ISBN 978-4-10- 116452-6

本作品は中国語(繁体字、簡体字)、英語、韓国語に翻訳されています。

 この小説のタイトルは、外国語に翻訳することが極めて難しい。「俺」は、日本語の一人称単数の代名詞で、本来、男性だけが使うちょっとぞんざいな形である。最近の日本では、若い男が老女に電話をかけ、名乗らずに「俺、俺」とだけ言って息子であると信じ込ませ、金を銀行口座に振り込ませて騙し取るといった詐欺事件が頻発して社会問題になっており、これを日本語で「オレオレ詐欺」という。

 『俺俺』の表題もこの新語を踏まえたもので、実際、主人公はたまたま入手した見知らぬ男の携帯電話を使って、その電話の持ち主の母親に電話し、90万円の金をやすやすと騙し取ってしまう。現代の世相を反映した、犯罪小説を思わせる発端だが、その先の展開は誰も予期できないほど奇想天外なもので、作品は不条理な幻想小説の域に踏み込んでいく。「俺」が騙した他人の母は、「俺」に会ってもなぜか本物の息子と信じて疑わず、「俺」が実家に行ってみると、そこには別の「俺」が住んでいて、自分は本来の母から息子と認知されない。やがて「俺」はどんどん増殖し、社会には無数の「俺」が溢れ、ついに「俺」同士が互いに殺し合って食い合うまでになる。

 現代人のアイデンティティの危機と、家族や社会における共同生活の空洞化を風刺した、ブラックなユーモアに満ちた作品である。(NM)
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星野 智幸

星野智幸

1965年米国・ロサンゼルス生まれ。新聞記者を務めた後、メキシコへ留学。1997年『最後の吐息』で文藝賞、2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。著書に『ロンリー・ハーツ・キラー』『水族』など。

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