家族
母の遺産──新聞小説
中央公論新社/2012年/528ページ/本体1800円/ISBN 978-4-12-004347-5
本作品は英語、スペイン語、スロベニア語に翻訳されています。
『母の遺産』は、50代の大学非常勤講師、美津紀を主人公とした長編で、高齢の母の介護と夫の浮気という二つの軸を中心に展開していく。元芸者の娘である母は、自由気まま、わがままでぜいたくな気質が最後まで抜けず、世話をしてくれる美津紀とその姉、奈津紀をふりまわし、へとへとにさせる。
その母が骨折による入院から、老人ホームでの生活を経て亡くなるまでの壮絶な日々が描かれる一方で、夫の浮気を発見し、衝撃を受けながらも、母の遺産を活用して自立し、夫と離婚することを決意する美津紀の姿が示される。下手をすれば陰惨になりかねない重い題材だが、そこそこ裕福な人たちの暮らしを描く筆致はむしろ爽やかなくらい明快で現実感があり、いわゆる「ワーキングプア」とは対極的な日本の「いま」のある一面をよく捉えている。母の死を告げる冒頭が、いきなり金の勘定とともに始まるということも、この小説の戦略をよく示している。
なお、この作品は副題にわざわざ「新聞小説」という看板を掲げ、このジャンルに対する一種のオマージュであることを宣言している。実際、この作品も読売新聞に1年以上にわたって連載されたものだ。日本ではいまだに、長編小説の新聞連載が文学において大きな意味を持っている。(NM)
その母が骨折による入院から、老人ホームでの生活を経て亡くなるまでの壮絶な日々が描かれる一方で、夫の浮気を発見し、衝撃を受けながらも、母の遺産を活用して自立し、夫と離婚することを決意する美津紀の姿が示される。下手をすれば陰惨になりかねない重い題材だが、そこそこ裕福な人たちの暮らしを描く筆致はむしろ爽やかなくらい明快で現実感があり、いわゆる「ワーキングプア」とは対極的な日本の「いま」のある一面をよく捉えている。母の死を告げる冒頭が、いきなり金の勘定とともに始まるということも、この小説の戦略をよく示している。
なお、この作品は副題にわざわざ「新聞小説」という看板を掲げ、このジャンルに対する一種のオマージュであることを宣言している。実際、この作品も読売新聞に1年以上にわたって連載されたものだ。日本ではいまだに、長編小説の新聞連載が文学において大きな意味を持っている。(NM)
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