家族愛
ビタミンF
新潮社(新潮文庫)/2003年/362ページ/本体630円/ISBN 978-4-10-134915-2
本作品は中国語、韓国語、タイ語に翻訳されています。
『ビタミンF』は、現代日本の家族に焦点を合わせた7編の短編集である。手練れの作家による、極めてwellmadeな作品集で、どの一編をとっても、巧みな構成と読者を引きつけるプロット、そして何よりも、すべての作品に登場する父親の姿の印象深さなどによって見事な出来映えになっている。「ビタミンF」というのは、作者による造語であって、さまざまな意味がこめられているようだが、ここでFはやはりfamily(家族)を強く連想させる。この短編集に登場するのは、30代後半から40代の、中年にさしかかった男たちだ。彼らは家族を持ち、東京近郊のニュータウンにささやかな住居を持ち、勤勉なサラリーマンとして給料を稼ぎ、家庭ではよき夫にして父であろうとするが、なかなかそれが実行できない、平凡な人たちである。
ここに描かれるのは、必ずしも幸福な家族ではないし、家族のメンバーの間でコミュニケーションが潤滑に行われているわけでもない。自分が学校でいじめられていることを、両親に打ち明けられない少女。娘からは大事なことは何も話してもらえない父親。しかし、すべての作品から、しみじみとした優しさが漂ってくる。それは作家の人間を見る目の温かさゆえだろう。家族の絆は壊れかけてしまっても、やはり家族の愛は大切なのだ。そう重松清は私たちに語りかけてくる。(NM)
ここに描かれるのは、必ずしも幸福な家族ではないし、家族のメンバーの間でコミュニケーションが潤滑に行われているわけでもない。自分が学校でいじめられていることを、両親に打ち明けられない少女。娘からは大事なことは何も話してもらえない父親。しかし、すべての作品から、しみじみとした優しさが漂ってくる。それは作家の人間を見る目の温かさゆえだろう。家族の絆は壊れかけてしまっても、やはり家族の愛は大切なのだ。そう重松清は私たちに語りかけてくる。(NM)
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