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恋愛

愛の夢とか

川上 未映子

講談社(講談社文庫)/2016年/224ページ/本体600円/ISBN 978-4-06-293368-1

本作品は英語に翻訳されています。

 すでに世界の共通語になりつつあるらしい、日本発の「かわいい」。この形容詞のたわいなく明るいばかりではない陰りも含むニュアンスを正確に知りたいならば、川上未映子の小説やエッセイを読むといい。

 フリーターや新婚さん、夫が破産した熟年の妻……さまざまな環境の中で、何かの「愛」を求めて暮らす女性たちが登場する、7つの短編集。表題作「愛の夢とか」には、時間を持てあます若い妻の、こんなつぶやきが出てくる。

 <ところでマカロンを買うときのあの気分っていったい何だろうといつも思う。自分が掛け値なしのバカになったみたいな気持ちになっていっそ清々しいような気持ちになるあの感じ>

 彼女たちは必ずしも恋人を、夫を、家族をもっとも愛しているわけではない。誰にでもわかるやり方で、懸命に生きるための努力を続けるわけでもない。彼女たちが好きなのはまず自分だし、この瞬間を満たしてくれるさまざまな「かわいい」モノ。大事なのは、自分自身が愛する対象としての「かわいい」であり、男性目線からお金儲けを目論んで製作される偽造品の「カワイイ」とはまるで違う。いくら気まぐれでキッチュに見えても、それぞれ生身の女性の感情から生み出された本物であり、切実な叫びを秘めているのだ。

 川上未映子は申し分ない散文の才能を持っているけれど、本質は詩人だろう。この時代に生きている女性の感性と、あらゆる外部との接触によって飛び散る、一行一行の真摯な火花は可憐で、余韻ある弧を描く。(OM)
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川上 未映子

川上 未映子

1976年大阪府生まれ。2007年デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』が芥川賞候補に。2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞を受賞。

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