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秘事/半所有者の表紙画像

夫婦愛

秘事/半所有者

河野 多惠子

新潮社(新潮文庫)/2003年/375ページ/本体552円/ISBN 978-4-10-116104-4

本作品はロシア語に翻訳されています。

 不思議な「愛」の物語だ。表向きは大学卒業と同時に恋愛結婚した、ほどよく豊かな関西出身のカップルが、シドニー、ロンドン、ニューヨーク……と一流商社に勤める夫の転勤にともなう長い海外の生活で、それなりの苦労を重ねながらも仲むつまじく暮らし続けるという、1960年代の高度成長期を背景にした、幸福な熟年夫婦の回想記である。幸福が持続し得たこと自体が、もっとも小説になりにくいテーマであり、希有な物語だといえるかもしれない。だが、幸福を支えることになった事故と傷痕が冒頭で克明に描かれ、この夫婦が共有したであろう、麻薬のようなある嗜好について、ほんの少しずつ明かされていく。そしていつの間にか読者は、良識ある市民生活の中に潜む、特異な「愛」のかたちを想像し、小説の醍醐味をたしかに受け取るであろう。

 長編の「秘事」に登場するのは三村という名の夫妻であり、併録されている短編の「半所有者」に登場する夫婦の名は久保という。しかし、二組を同一の夫婦と想定して読んだほうが、感興は深まるかもしれない。「半所有者」で描かれるのは、亡くなった妻の遺体を自宅に迎えた晩、夫が敢行した究極の「愛」の行為であり、これをもって夫婦の愛は完結したのだった。谷崎潤一郎のマゾヒズムを愛してやまない作家は、クライマックスへ向けて周到に、ささいな出来事と描写を張りめぐらせる。河野多惠子ほど精緻な小説を構築する技量を持つ作家をいまだ知らない。(OM)
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河野 多惠子

河野 多惠子

1926年大阪府生まれ。1963年「蟹」で芥川賞、1969年『不意の声』および1977年『谷崎文学と肯定の欲望』で読売文学賞、1980年『一年の牧歌』で谷崎潤一郎賞、2002年『半所有者』で川端康成文学賞など受賞作多数。女性初の芥川賞選考委員も務めた。2014年に文化勲章を受章。2015年逝去。

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