
夫婦愛
岸辺の旅
文藝春秋(文春文庫)/2012年/232ページ/本体533円/ISBN 978-4-16-783811-9
本作品はスペイン語に翻訳されています。
ある日、「私」が台所でしらたまを作っていると、配膳台の奥の薄暗がりに夫の優介がふいに現れた。優介は3年前に姿を消して行方知れずだったが、好物のしらたまを食べるために戻ってきたのだ。ただし優介は、自分は水底で蟹に食われたと言う。そしてまたどこかへ行こうとしている。
<さあいそいで。夜が明けきってしまう>
二人は荷造りをして旅に出る。それはすでに死者となったが死にきれずにいる優介が妻にある一言を伝えるために歩いた道のりをさかのぼる旅だった。新聞配達店、餃子屋……二人は夫を知る人を訪ね歩き、山のタバコ畑では農作業も手伝った。彼らは生者とも死者ともつかない。だが、あてどもなくさまよう夫婦をごく自然に受け入れていた。彼岸と此岸を行きつ戻りつする中で、「私」は夫の3年間の不在を埋めていく。
<ちゃんとあやまりたかった>。優介は沖のほうを見ながら妻に言った。海辺でたたずむ二人の前にやがて天につながるヤコブの梯子が現れる。優介の魂に別れを告げた「私」は、二人分の荷物を持って再び歩き出す。現代の「冥界下り」を描く、美しく静かな物語だ。(SH)
<さあいそいで。夜が明けきってしまう>
二人は荷造りをして旅に出る。それはすでに死者となったが死にきれずにいる優介が妻にある一言を伝えるために歩いた道のりをさかのぼる旅だった。新聞配達店、餃子屋……二人は夫を知る人を訪ね歩き、山のタバコ畑では農作業も手伝った。彼らは生者とも死者ともつかない。だが、あてどもなくさまよう夫婦をごく自然に受け入れていた。彼岸と此岸を行きつ戻りつする中で、「私」は夫の3年間の不在を埋めていく。
<ちゃんとあやまりたかった>。優介は沖のほうを見ながら妻に言った。海辺でたたずむ二人の前にやがて天につながるヤコブの梯子が現れる。優介の魂に別れを告げた「私」は、二人分の荷物を持って再び歩き出す。現代の「冥界下り」を描く、美しく静かな物語だ。(SH)

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