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家族愛

抱擁、あるいはライスには塩を

江國 香織

集英社(集英社文庫)/2014年/上:352ページ/本体600円/ISBN978-4-08-745150-4、下:336ページ/本体600円/ISBN978-4-08-745151-1

翻訳出版はありません。

 各国大使館が集まり、東京タワーが間近にそびえる町、神谷町。そこに暮らす柳島一家の物語である。大正時代に建てられた、美術館のような洋館に住む一家は、日本の一般的な家族とはずいぶん異なるライフスタイルをつらぬいている。そもそも彼らは、家族同士でしょっちゅう「抱擁」しているのだが、これは他の人びとの目にとても西洋的で、いささか奇異な慣習と映ってしまう。そして一家の4人の子供たちは学校に通っていない。義務教育とは親が子供に教育を授ける義務にすぎず、学校ではなく家庭で勉強させてもいいのだ。そんなポリシーから、家庭教師を雇って高度な勉強をさせているのである。この一家が独自の、いわば貴族主義的な「義務」の観念を抱いていることは明らかだ。そして、上品で仲のいい一家が実は父親、母親それぞれが婚外恋愛で作った子供を含む、混成的な成り立ちを持っていることも徐々にわかってくる。

 著者は、画一主義的な日本社会に対し優雅に反旗を翻す一家の姿を、自在に時間軸を飛び越えつつ描き出す。誇り高く、自由を愛する彼らそれぞれの語りに、外部の人間の証言も巧みに取り込んだ物語は、複眼的な面白さとスリルに満ちている。やがて時代の変遷とともに、一家の絆はほどけ始める。ある者は寿命を迎え、ある者はパートナーを得て家を出る。一つの理想郷としての家族が、その終焉を迎えるまでを、作者は詩情豊かな文章で感動的に描き切った。(NK)
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江國 香織

江國 香織

1964年東京都生まれ。短大卒業後アテネ・フランセを経て米国留学。1987年に童話作家としてデビュー後、多分野で執筆活動を続ける。『きらきらひかる』で紫式部文学賞、『号泣する準備はできていた』で直木賞など受賞多数。テレビドラマ化や映画化された作品も多い。

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