
小説
ツリーハウス
文藝春秋(文春文庫)/2013年/496ページ/本体667円/ISBN 978-4-16-767209-6
初出:産経新聞大阪本社夕刊にて2008年~2009年まで連載
本作品は中国語、フランス語に翻訳されています。
角田光代は、いま日本でもっとも人気の高い女性作家のひとりだが、最近の創作の充実ぶりには目覚ましいものがある。2010年の後半には人工体外受精によって生まれてきた子供たちの運命を追った『ひそやかな花園』(講談社文庫)、ある女性の成長をファンタジー性と叙情性豊かに描きだした連作短編集『なくしたものたちの国』(集英社文庫)、そしてこの『ツリーハウス』を次々に出版したが、驚くべきことにこれらの3冊は互いにまったく違った題材を扱いながら、いずれも、「純文学」的な人間洞察の深みと、エンターテインメント性の高い優れた物語性の両方を兼ね備え、ジャンルを超えて優れた小説になっている。『ツリーハウス』の舞台となるのは1990年代末の東京だが、物語は中華料理店を経営する平凡な日本人の一家の歴史を過去にさかのぼり、1930年代に日本から満州に渡った祖父母、学園紛争時代に属する父母、そしてカルト教団の組織犯罪や大地震といった世紀末的な出来事の中で自分の生き方を見つけようとして模索している子供たちの3代にわたって、日本現代史を背景に家族年代記が展開していく。これまで主として現代社会を舞台に比較的狭い人間関係を描いてきた角田にとって、初めての視野の広い歴史小説になっていて、注目に値する野心的な作品だといえるだろう。(NM)

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