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  • 10歳から
  • 2000年以降

ぼくが弟にしたこと

岩瀬 成子 作
長谷川 集平 絵

理論社/2015年/160ページ/ISBN 978-4-652-20131-2

翻訳出版はありません。

 6年生の男の子、麻里生の一人称の語りで、日常の心の揺れを描いた物語。麻里生はある日、弟の森生が自分のジグソーパズルを勝手にさわっているのを見て、たぎるような怒りにかられ、弟を力いっぱい殴ってしまう。母にとがめられても謝ることができない。自分でも不可解な弟への暴力をきっかけに、3年前に離婚した父のことを思い出していく。土木事務所に務め、柔道五段でスポーツマンの父は、麻里生がソフトボールチームで失敗したり、運動会で負けたりするたびに、「ばか」「にぶい」「グズ」と言っては、蹴ったり殴ったりした。わがままを言ったときは、クローゼットに閉じ込めた。そうした父の虐待の記憶が、日常のふとしたきっかけで蘇ってくる苦しさが、まずは生々しく伝わってくる。

 しかし、その一方で、生活のすべてがその記憶だけに支配されず、静かに救われていく様子が描かれていくのも、本作の魅力である。母子3人の暮らしをつくろうと努力している母の「逃げたんじゃない」という言葉、両親の再婚や新しい家族を受けいれようと努める同級生の姿、前の家には「大きなクモ」がいたと語る弟の鋭い感性。そうした周囲の人々のさりげない言動が少しずつ積み重なって、父の虐待の記憶から脱していく過程に、独特のリアリティーがある。公園で蝶の集まる木を弟と見上げながら、殴ったことを謝るラストシーンには、大人に否定されてもしなやかに再生しうる、子どもたちの静かな強さが感じられる。(OM)
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岩瀬 成子

いわせ じょうこ
1950年、山口県に生まれる。1977年『朝はだんだん見えてくる』でデビュー。小学館文学賞、路傍の石文学賞、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞、JBBY賞など受賞多数。著作に『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』、『迷い鳥とぶ』、『そのぬくもりはきえない』、『まつりちゃん』『ピース・ヴィレッジ』『あたらしい子がきて』、『きみは知らないほうがいい』などがある。

長谷川 集平

はせがわ しゅうへい
1955年、兵庫県に生まれる。1976年に創作えほん新人賞受賞作『はせがわくんきらいや』でデビュー。絵本、小説、挿画などで活躍。日本絵本賞受賞。絵本に『とんぼとりの日々』、『トリゴラス』、『あしたは月よう日』、『ホームランを打ったことのない君に』、『大きな大きな船』、『およぐひと』、『ファイアー』、小説に『見えない絵本』などがある。

翻訳出版に関する連絡先

株式会社理論社
海外ライツ担当
Email: rights@rironsha.co.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角@マークに変更してください。)

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