主人公は「二十数年ものあいだ、ずっとねたっきり」の男性、タチバナさん。重い障害があるそのタチバナさんが、ある晴れた朝「散歩びよりだ」と思うところから物語は始まる。するとおかあさんは、ベッドの足に車輪のついた乗り物に立花さんを乗せる。ベッドの下にはチリ紙、タオル、スプーン、コップ、ストロー、それに尿瓶までそろっていて、あとは手帳と財布と手の代わりになる棒を持てば、準備完了。そこからは、通りかかった人を「すみませーん!」と呼びとめては、押して行ってもらうというのがタチバナさんのユニークな散歩スタイルだ。また、手を貸してくれる人々が、必ずしも善人ばかりではないというところもおもしろい。受験に悩む青年、体を治す「神様」を紹介すると怪しげな勧誘をしてくるおばさん、家族に邪険にされていると愚痴をこぼすおじいさんなど、それぞれに事情を抱えた人々との出会いにリアリティーがある。
そのうえで、最大の魅力は、タチバナさんのつきぬけた明るさだ。手の代わりに使う棒を「なまけん棒」(「なまける」をもじった造語)と名付けたり、しつこいおばさんに尿瓶を使わせようとしたり……。まさに「口」を使って進んでいく、障害をものともしないタチバナさんの工夫された生活ぶりとユーモア感覚に、手を貸した人々のほうが救われていくこともある。障害の有無をこえて、支え合える社会が見えてくる物語だ。(OM)
そのうえで、最大の魅力は、タチバナさんのつきぬけた明るさだ。手の代わりに使う棒を「なまけん棒」(「なまける」をもじった造語)と名付けたり、しつこいおばさんに尿瓶を使わせようとしたり……。まさに「口」を使って進んでいく、障害をものともしないタチバナさんの工夫された生活ぶりとユーモア感覚に、手を貸した人々のほうが救われていくこともある。障害の有無をこえて、支え合える社会が見えてくる物語だ。(OM)