「山のたけやぶに、とらが すんでいた。なまえは トラノ・トラゴロウと いった」という書き出しではじまる8編から構成されている。最初の、「一つが 二つ」は、キツネが発明した1つのものを2つにする機械で、サルはリンゴを2つにしてもらい、ウサギはニンジンを2本にしてもらう。トラゴロウは、片方が昼寝している間に、もう一方が肉まんじゅうを食べられるから便利だと、自分を2人にしてもらう。ところが、どっちが昼寝して、どっちが肉まんじゅうを食べるかでけんかになる。トラゴロウの安易な思いつきだったが、自分を分けることはできないと知って以降の物語につながっていく。つぎの「きばを なくすと」では、2本あるはずの立派な牙が1本しかないので、失った自分の牙をさがしに行く。最初に会ったニワトリは、ミミズを食べたら教えるというので、嫌々ながらもミミズを食べる。ブタには腐ったジャガイモを、羊には枯草を食べさせられる。最後に木こり夫婦のところで、涙が出そうなほどまずいスープを飲まされると、お椀の底に自分の牙を発見する。トラゴロウは、牙を口にはめ込むや力がもりもりと蘇り、木こり夫婦を食べ、意地悪をした動物たちをみんな一息で飲み込んでしまう。無知であどけないトラゴロウが、自分という存在のあやふやさや不安を乗り越えて、自己を獲得する寓話的な物語が続く。幼い子どもを対象とした文学の傑作として高く評価された作品である。(NA)