「イコ」と呼ばれていた主人公の少女「私」は、5歳のときにお母さんを亡くした。そのため、父方のおばあさんのタカさんにあずけられた。イコが1年生になった年、お父さんが再婚する。ところが、夏休みが終わるころ、お父さんに召集令状が来た。その年の12月8日、太平洋戦争が始まる。新しいお母さんのおなかには赤ちゃんがいる。イコが4年生の夏休み前、戦場で病気になったお父さんが、すっかりやせこけて突然帰って来た。戦争が激しくなり、東京はいつ空襲にあうかわからない。イコは、お父さんを東京に残して、新しいお母さんと生まれたばかりの弟と3人で、東京近郊の小さな村に疎開した。草がぼうぼうとはえた中に建つ、わらぶきの一軒家だ。イコは転校生になり、森の中の木々におおわれたトンネルみたいな道を通って村の学校に通う。この道が近道だが、暗くて怖い。クラスの男の子から、以前イコが暮らす家に脱走兵が隠れていて、大騒ぎになったという話を聞く。脱走兵はまだ見つかっていないという。ますます怖くなったイコは、「イコが通りまーす」と呪文のようにつぶやきながら森を走り抜ける。そのトンネルの森で、イコはハーモニカを吹く兵隊さんに会う。国際アンデルセン賞作家が、戦争中の体験をもとに書いた、ちょっと怖くて不思議な物語。なれない田舎でお父さんと別れてくらす少女の不安と、戦争の恐ろしさがさりげなく描かれていて味わい深い。(NA)