人のためだけに、せっせとご馳走を作って働くのが嫌になった片手鍋のおばあさんは、「これからは、おいしいものを おなかいっぱい たべて、くらすのさ」と家を飛び出す。ネズミが持っていたソーセージを取り上げてパクリ! メンドリに出会うと「あたしゃ、なんでも たべちまうんだ」とパクン。畑に座り込んで、キャベツとトマトをパクパク。森の中で猟師とキツネを奪い合って、猟師を撃退してキツネをパクリ。野原では牝ウシをパクン。お鍋のおばあさんは、出会うものを次々と飲み込み、どんどん大きくなっていく。ところが、いくら食べてもお腹がすくので、だんだん不安になって来る。海に行けば、魚もいっぱいいるし大きなクジラもいると、蚊に教えられたお鍋のおばあさんは、とうとうクジラまで食べてしまう。そして最後に、お鍋のおばあさんは宇宙に飛び出していくという、なんともスケールの大きなナンセンス童話だ。お鍋を主人公に、人のためにだけ料理を作ることから自分を解放し、出会うものを次々と飲み込んでいく食欲旺盛なお鍋のおばあさんのバイタリティーは痛快で、渡辺洋二の挿絵もユーモラスで楽しい。最初に出版されてから半世紀以上たった今も、同じ作者の『ふらいぱんじいさん』(1969年)とともに、幼児から幅広く読み続けられている幼年文学の傑作である。(NA)
