日本のファンタジー作家として高く評価されている著者が、1972年に初めて出版した短編集を文庫にしたもの。山で道に迷った青年が、青いキキョウの花畑で子ギツネの染物屋に出会い、両手の親指と人差し指をキキョウの青色に染めてもらう。両手の青い4本の指で窓のようなひし型を作ると、その中にもう二度と会えない人の姿が見える、という「きつねの窓」は、小学校6年生の国語の教科書にも載り、大人になっても懐かしく思い出す人が多い。「さんしょっ子」は、貧しいお百姓の家のサンショウの木の精が主人公。その木の下で遊ぶお百姓の娘、すずなと幼馴染の三太郎は、時折さんしょっ子の気配を感じながら過ごす。無邪気な子ども時代はやがて終わり、大人になった3人は片思いが報われることもないまま別々の道を歩むという、せつない物語。
全部で8編の短編が収められているが、いずれも人間と異世界との接点が幻想的に描かれ、独特の不思議な雰囲気がある。没後30年近く経っても全集や短編集が出版され、個々の作品が絵本化され、愛読者が多い。その魅力は、昔話のような趣を持った流れるような物語展開、穏やかな言葉づかいによる優しい語り口、色を効果的に使った情景の美しさなどによるところが大きい。そして同時に、人間の心の奥底にひそむ欲望や、憧れ、恐れ、悲しみといった感情が、読者の心にひたひたと迫ってくるような深い印象を残すところにあるのだろう。(FY)
全部で8編の短編が収められているが、いずれも人間と異世界との接点が幻想的に描かれ、独特の不思議な雰囲気がある。没後30年近く経っても全集や短編集が出版され、個々の作品が絵本化され、愛読者が多い。その魅力は、昔話のような趣を持った流れるような物語展開、穏やかな言葉づかいによる優しい語り口、色を効果的に使った情景の美しさなどによるところが大きい。そして同時に、人間の心の奥底にひそむ欲望や、憧れ、恐れ、悲しみといった感情が、読者の心にひたひたと迫ってくるような深い印象を残すところにあるのだろう。(FY)