中学入学前の春休みに、巧は父の転勤で岡山県の小都市に引っ越してきた。そこは両親の故郷でもあり、一家は祖父の家に住むことになる。小学校の野球チームで天才的な資質をもつ投手といわれた巧は、自信に満ち、自分だけを信じる少年だ。父は仕事に忙しく、母は生まれつき病弱な弟の青波の心配ばかりしているので、巧はかたくなに自分の世界を守り、誰にも心を開くことがない。しかし、高校野球の監督として何度も甲子園に出場した経験のある祖父、洋三は厳しくも温かい目で巧を見守る。新しい環境でもトレーニングを怠らない巧は、ランニングの途中で体の大きな少年、豪と出会う。豪も地元の野球チームのキャッチャーとして県大会まで出場しており、巧の評判を知っていた。巧はおれの球を受けてみろとばかりに豪を誘い、投球練習をするが、巧の剛速球を苦もなく捕球した豪に驚き、豪とならば最高のバッテリーが組めるかもしれないと思う。春休みという短い期間の出来事だが、2人の主人公と、それをとりまく家族や野球少年たちが生き生きと描き分けられ、印象的なドラマとして心に残る。一筋縄ではいかない性格の巧と、それを大らかに受け止める豪の関係が、地元の中学の野球チームで今後どのように発展していくのか、読者に期待させて物語は終わる。続編が5巻あり、挫折を繰り返しながら成長する少年たちの姿を追っている。漫画、アニメ、ラジオドラマ、テレビドラマ、映画にもなった人気作品である。(FY)
