小説
献灯使
講談社(講談社文庫)/2017年/272ページ/本体650円/ISBN 978-4-06-293728-3
本作品は中国語(繁体字・簡体字)、チェコ語、オランダ語、英語、ドイツ語、ルーマニア語、タイ語、トルコ語に翻訳されています。
大災害により、日本の自然と社会が取り返しのつかない損害を受けてしまったのちの物語である。日本は鎖国の道を選んで諸外国との国交を断ち、政府は民営化され、政治家は無益な法律改正にあけくれるばかり。すっかり脆弱になった子供たちは、微熱が下がらず、ちゃんと立って歩くこともかなわない。元気なのは老人ばかりというありさまである。かくして、3.11以降の、そしてまた少子高齢化の日本の状況を鋭く反映しながら、この小説の文章は驚くべきことに、わくわくと楽しく、弾むような愉快さに満ちている。ユートピアの正反対、まさにディストピア文学でしかありえないはずの条件がそろっているのに、“呪い”を軽やかに振り払う、しなやかで遊戯的な語りが実践されている。
小説の中心には一人の子供がいる。「無名」という名の彼の日常が、一つの希望として輝き出す。まったく無力でありながら、彼は過去に捉われず、自らを憐れんだり悲観したりもしない。声変わりもせず、男にも女にもならず、若くして白髪の少年は、やがて海を渡り、禁を犯して未知の世界へ旅立つときを待つ。
近代国家を支えてきた信念の数々を疑う必要に迫られた時代を背景に、小説家はこの不思議な魅力を持った少年像を通して、「まだ到着していない時代の美しさ」を読者に垣間見せてくれるのだ。(NK)
小説の中心には一人の子供がいる。「無名」という名の彼の日常が、一つの希望として輝き出す。まったく無力でありながら、彼は過去に捉われず、自らを憐れんだり悲観したりもしない。声変わりもせず、男にも女にもならず、若くして白髪の少年は、やがて海を渡り、禁を犯して未知の世界へ旅立つときを待つ。
近代国家を支えてきた信念の数々を疑う必要に迫られた時代を背景に、小説家はこの不思議な魅力を持った少年像を通して、「まだ到着していない時代の美しさ」を読者に垣間見せてくれるのだ。(NK)
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