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小説

記憶の渚にて

白石一文

Kadokawa/2019年/592ページ/本体880円/ISBN 978-4-04-107307-0

翻訳出版はありません。

 人間の生涯にわたる記憶は、その個人の死とともにすべて消滅してしまうのか。そうではなく、<我々は自分のコンピューター(脳)に蓄えた情報(記憶)を外部のホストコンピューター(記憶の海)に絶えず送信している>と考えることはできないか。そして、自分や祖先が蓄えてきた記憶を、誰かが必要に応じて情報の海を介して受け取っているのだとしたら……。

 本作は、この独創的な仮説を実証しようと、ダイナミックに構想された大長編。胸騒ぎの止まぬミステリーとして楽しむこともできるだろう。

 世界的に知られた日本人作家の死、さらにその弟の死が第一部に置かれる。謎を追跡する羽目に追い込まれるのが、彼らの甥にあたる若い作家だ。周辺には怪しげな人びとが入れ替わり登場し、日本各地を経てロンドンまで舞台は移動する。事件の解明に向け、手がかりから手がかりへ、細く、追跡が困難な軌跡が描かれていく。当初は理解不能な遺書も人間関係も、長い時間を経て解きほぐされ、やがて見えてくるのは150年にわたる一族の、いや、人間の記憶をめぐる壮大な物語。記憶をめぐる仮説の海へ、いつのまにか深く引きずり込まれる体験は、甘美でさえあるだろう。(OM)
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白石一文

白石一文

1958年福岡県生まれ。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。思索的な作風で独特の存在感を放つ。『愛なんて嘘』など著作多数。

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