
仕事
歩兵の本領
講談社(講談社文庫)/2004年/328ページ/本体590円/ISBN 978-4-06-273989-4
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日本の自衛隊は、憲法における位置づけや、最近成立したばかりの安保関連法制との関係においてさまざまな議論を呼び、そのあり方が政治的に注目されている。しかし、そこに勤務する現場の人たちが何を考え、どのように生きているかについて具体的かつ鮮やかに描いた文学作品は少ない。
浅田次郎の連作短編集『歩兵の本領』は、その意味では自衛隊員たちの日常を描き出した数少ない貴重な作品である。浅田といえば、時代小説の分野で数々のベストセラー小説を書き、現在日本ペンクラブ会長を務める日本の小説界の重鎮の一人だが、作家になる前の若い頃、自衛隊に勤務しており、本書は彼自身の経験・見聞に基づいたものだ。時代設定は1970年頃なので、いまの自衛隊とは相当に違う。当時の自衛隊は「給料は法外に安く、環境はこのうえなく劣悪」で、そこに志願して入ってくる者には「変わり者」や「何らかの事情で世間に身の置き所のなくなった若者」が多かった。他方、戦前からの帝国軍人たちもまだたくさん上官にはいて、旧来の陰湿な軍隊の慣習が残っていた。
浅田はそういった素材を扱いながらも、本来の持ち味である巧みなストーリーテリングと、ユーモアと人情味あふれるタッチを生かして、自衛隊員であることの難しさと職業的な誇りを見事に描き出している。(NM)
浅田次郎の連作短編集『歩兵の本領』は、その意味では自衛隊員たちの日常を描き出した数少ない貴重な作品である。浅田といえば、時代小説の分野で数々のベストセラー小説を書き、現在日本ペンクラブ会長を務める日本の小説界の重鎮の一人だが、作家になる前の若い頃、自衛隊に勤務しており、本書は彼自身の経験・見聞に基づいたものだ。時代設定は1970年頃なので、いまの自衛隊とは相当に違う。当時の自衛隊は「給料は法外に安く、環境はこのうえなく劣悪」で、そこに志願して入ってくる者には「変わり者」や「何らかの事情で世間に身の置き所のなくなった若者」が多かった。他方、戦前からの帝国軍人たちもまだたくさん上官にはいて、旧来の陰湿な軍隊の慣習が残っていた。
浅田はそういった素材を扱いながらも、本来の持ち味である巧みなストーリーテリングと、ユーモアと人情味あふれるタッチを生かして、自衛隊員であることの難しさと職業的な誇りを見事に描き出している。(NM)

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