
東京の暮らし、地方の暮らし
空にみずうみ
中央公論新社/2015年/512ページ/本体960円/ISBN 978-4-12-206611-3
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「近頃、空を見あげることが多くなった」。宮城県仙台市に暮らす作者は、東日本大震災後から丸3年が経った頃から、この私小説を書き始めている。同じ空の下で命を 共にしている鳥獣虫魚、植物を、集合住宅のベランダから思いやりながら、中年の夫婦「早瀬」と「柚子」は、穏やかな日常を少しずつ取り戻しつつある感慨に、日々、何度も浸らずにはいられない。ある時は青葉木菟の鳴き声を寝床で聞きながら。柚子は台所でらっきょうを漬け、探鳥会に参加している時も。昨年と同じ営みを今年も繰り返すことができるひとときを分かち合うことで、二人は前を向こうとしているかのようだ。
津波で家を流されたり、原発事故で避難を余儀なくされた直接の被災者ではない。だが、この夫婦は、震災の話題を親しい隣人との会話をいまだに避け、未来への希望を気軽に語らうこともない。そこに、3・11を経た東北の人びとの内面に残る傷の深さが、惻々としのばれるのだ。
彼らはいま、ここにある日常を慈しむ。そこにしか人間の幸福はないという断固たる思いが、この作品を貫く。(OM)
津波で家を流されたり、原発事故で避難を余儀なくされた直接の被災者ではない。だが、この夫婦は、震災の話題を親しい隣人との会話をいまだに避け、未来への希望を気軽に語らうこともない。そこに、3・11を経た東北の人びとの内面に残る傷の深さが、惻々としのばれるのだ。
彼らはいま、ここにある日常を慈しむ。そこにしか人間の幸福はないという断固たる思いが、この作品を貫く。(OM)

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