
家族
たまもの
講談社/ 2014年/192ページ/本体1700円/ISBN 978-4-06-218969-9
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ある日、幼なじみの男――かつて数年間「わたし」と恋愛関係にあった――が赤ん坊を連れてやって来る。その子の母親は出産直後に事故死した。いつか必ず迎えに来るから、預かってくれないかというのだ。それは「わたし」がすでに40歳をすぎてからのことだった。以降、女手一つで男児を育ててきた暮らしが、10年後の地点で語られる。ある日突然「託される」ものとしての生命。ひとはそれをただ愛おしみ、大切に守りつつ生きていくほかはない。
育児をめぐるそんな真実が、揺るぎない形で捉えられている。「わたし」と息子の関係は、「血の繋がり」がないがゆえにいっそうくっきりと、親子を繋ぐ絆の尊さを浮き彫りにする。子供という「宝」の重さに圧倒される思いは、「子に勝る宝はない」という、4~8世紀の歌を集めた『万葉集』にまでさかのぼる日本文学の根底的主題である。
同時に、母子の関係にひそむ儚さや、淋しさもここには描かれている。いつかこの子は自分の前からいなくなるのではないかという意識ゆえに、目の前にいる子供の元気な姿は「わたし」にとってひときわ魅惑的な輝きを放つのだ。子供とともに生きていく日々のもたらす深い想いを、詩人としても知られる作者はしなやかな文体で、魅力的に描き出している。少子化にあえぐ日本社会に子供という存在の素晴らしさを改めて教える一冊である。(NK)
育児をめぐるそんな真実が、揺るぎない形で捉えられている。「わたし」と息子の関係は、「血の繋がり」がないがゆえにいっそうくっきりと、親子を繋ぐ絆の尊さを浮き彫りにする。子供という「宝」の重さに圧倒される思いは、「子に勝る宝はない」という、4~8世紀の歌を集めた『万葉集』にまでさかのぼる日本文学の根底的主題である。
同時に、母子の関係にひそむ儚さや、淋しさもここには描かれている。いつかこの子は自分の前からいなくなるのではないかという意識ゆえに、目の前にいる子供の元気な姿は「わたし」にとってひときわ魅惑的な輝きを放つのだ。子供とともに生きていく日々のもたらす深い想いを、詩人としても知られる作者はしなやかな文体で、魅力的に描き出している。少子化にあえぐ日本社会に子供という存在の素晴らしさを改めて教える一冊である。(NK)

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