
東京の暮らし、地方の暮らし
阿弥陀堂だより
文藝春秋(文春文庫)/2002年/240ページ/本体505円/ISBN 978-4-16-754507-9
翻訳出版はありません。
日本の、とりわけ地方の生活は、第二次大戦後まさしく激変した。農業に基盤を置いていた社会は急速に産業化、都市化し、その流れに取り残された地方の農村は凋落の一途をたどる。
本書の主人公である小説家・上田は、信州・谷中村の零細農家の一人っ子として育ち、やがて都会に出て故郷を捨てる。しかし医者である妻が、激務に流産のショックが重なって心の病を得たことをきっかけに、生活の拠点を東京から故郷の村に移す決心をする。それは自らの創作の行き詰まりを打開するきっかけを求めてのことでも あった。久しぶりに戻った山里の村で、作家は農業を再開し、妻は村の診療所で病人を診察する。昔と変わらない美しい自然に囲まれ、ゆったりとした暮らしの中で、二人の心身は健康を取り戻していく。
とりわけ、九十歳を越えてたった一人、村の阿弥陀堂(村人の霊を祀る場所)の堂守として山中で暮らす「おうめ婆さん」との出会いを通して、二人の人生観は変わっていく。おうめ婆さんは、テレビも電話もなければ、トイレさえない不便きわまる住環境を苦にもせず、小さな畑を耕して自給自足し、死も病気もおそれず朗らかに暮らしている。
作者は時代を超越したような老婆の姿を温かく、共感豊かに描きながら、われわれの現在を問い直し、別の人生の可能性を提示している。(NK)
本書の主人公である小説家・上田は、信州・谷中村の零細農家の一人っ子として育ち、やがて都会に出て故郷を捨てる。しかし医者である妻が、激務に流産のショックが重なって心の病を得たことをきっかけに、生活の拠点を東京から故郷の村に移す決心をする。それは自らの創作の行き詰まりを打開するきっかけを求めてのことでも あった。久しぶりに戻った山里の村で、作家は農業を再開し、妻は村の診療所で病人を診察する。昔と変わらない美しい自然に囲まれ、ゆったりとした暮らしの中で、二人の心身は健康を取り戻していく。
とりわけ、九十歳を越えてたった一人、村の阿弥陀堂(村人の霊を祀る場所)の堂守として山中で暮らす「おうめ婆さん」との出会いを通して、二人の人生観は変わっていく。おうめ婆さんは、テレビも電話もなければ、トイレさえない不便きわまる住環境を苦にもせず、小さな畑を耕して自給自足し、死も病気もおそれず朗らかに暮らしている。
作者は時代を超越したような老婆の姿を温かく、共感豊かに描きながら、われわれの現在を問い直し、別の人生の可能性を提示している。(NK)

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