
北海道
海炭市叙景
小学館(小学館文庫)/2010年/320ページ/本体700円/ISBN 978-4-09- 408556-3
翻訳出版はありません。
舞台は北海道、函館とおぼしき海に囲まれた町。町の先端には小高い山があり、ロープウェイで登っていった頂上から眺める夜景は多くの観光客を集めている。だが1980年代後半、町は構造的な不況から抜け出すすべを見出せないまま、みるみる活気を失い、未来へのビジョンを失いつつあった。その中で懸命に生きる「普通の人びと」の姿が、共感あふれる筆遣いで次々と描き出され、ひとつの大きな連鎖を作り上げていく。
炭鉱を解雇された青年。学校をさぼって一人、町をさまよう中学生。定年間近の路面電車運転手。真冬の真夜中のバーに上半身裸で飛び込んできた船乗り。競馬に夢中のサラリーマン。同じ町で暮らすという以外、相互に接点をもたない人物たちの姿を
通して、彼らの生活を浸す海の匂いと北国の光がまざまざと感知され、かけがえのない人生の真実が浮き彫りになる。
作者は本書刊行を待たずして自殺した。しかしこれは、庶民の抱える深い悲しみや絶望をあぶり出す小説であると同時に、ところどころに希望の兆しがまばゆく輝き出す物語でもある――まるで冬の山を息づかせ、発光させる「ダイヤモンドダスト」のように。なお熊切和嘉監督による映画化作品(2010年)が、原作の味わいを裏切らない傑作として評価されていることも付記しておこう。(NK)
炭鉱を解雇された青年。学校をさぼって一人、町をさまよう中学生。定年間近の路面電車運転手。真冬の真夜中のバーに上半身裸で飛び込んできた船乗り。競馬に夢中のサラリーマン。同じ町で暮らすという以外、相互に接点をもたない人物たちの姿を
通して、彼らの生活を浸す海の匂いと北国の光がまざまざと感知され、かけがえのない人生の真実が浮き彫りになる。
作者は本書刊行を待たずして自殺した。しかしこれは、庶民の抱える深い悲しみや絶望をあぶり出す小説であると同時に、ところどころに希望の兆しがまばゆく輝き出す物語でもある――まるで冬の山を息づかせ、発光させる「ダイヤモンドダスト」のように。なお熊切和嘉監督による映画化作品(2010年)が、原作の味わいを裏切らない傑作として評価されていることも付記しておこう。(NK)

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