
小説
ヘヴン
講談社(講談社文庫)/2012年/320ページ/本体552円/ISBN 978-4-06- 277246-4 初出:「群像」2009年8月号
本作品はフランス語、韓国語に翻訳されています。
『ヘヴン』は新進作家、川上未映子が、芥川賞を受賞してから1年半後に発表した新作である。彼女にとって初めての本格的な長編であるだけでなく、これまでの彼女の複雑でしばしば難解な文体からは予期できないほど単純で明快な文体で書かれていて、この作家の新しい境地を切り開くものとして注目される。中心的なテーマは中学校での激しい「いじめ」である。語り手である中学二年生(14歳)の少年は、斜視のせいで執拗にいじめられているのだが、抵抗しようともせず、されるがままだ。そんな彼が心を通わせるただ一人の友達は、やはり「不潔だ」としていじめられる同学年の女の子だけだった。しかし、最後にはこの二人は騙されて公園に呼び出され、目を覆いたくなるような凄惨ないじめの場面が展開する。このように『ヘヴン』は中学校での「いじめ」を生々しくリアルに描いているが、その一方で、弱者にふるわれる暴力をめぐる、ほとんど哲学的・宗教的な議論もここでは展開する。現代日本が抱える社会問題を扱いながらも、そこからシンプルで深みのある作品を創り出した川上未映子の才能には目覚ましいものがある。この作品によって、彼女は現代日本文学を切り開くもっとも重要な若手作家の一人であることを決定的に印象付けたといえるだろう。(NM)

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