
四国
場所
新潮社(新潮文庫)/2004年/341ページ/本体514円/ISBN 978-4-10-114436-8
翻訳出版はありません。
四国出身で大成した女性作家は多数いる。徳島県生まれの瀬戸内寂聴は「春はお遍路さんの鈴の音が運んでくる」と幼い頃、思っていた。また、母親がお遍路さんを玄関先でもてなす姿から、「無償の行為、愛を学んだ」という。数多くの人間ドラマを垣間見る風土の中で育ったのだろう。
瀬戸内晴美は、幸福な少女時代を徳島で送り、東京の女子大へ進学。在学中に結婚した若い学者と北京で戦争を体験し、一児を連れて故郷に戻る。ところが夫の教え子と恋に落ち、出奔。それからは京都、東京の各所でいくつかの恋と転居を繰り返しながら人気作家の道を突き進む。この作品は、敗戦を契機に封建的な因習から解き放たれた、日本女性の生き方を考える上でも重要だろう。
瀬戸内は51歳で突如、出家を断行し、以後、天台宗僧侶、寂聴を名乗る。京都・嵯峨野の庵で、ときに中東の戦地まで薬を届けにボランティアで赴き、岩手県天台寺で青空法話を続けながら、40年もの間、文学の道を極めてきた。
『場所』は、70代後半になった作者が、出家に至る激しい半生を過ごした場所を、もう一度その足でたどって書かれた私小説の傑作だ。とりわけ冒頭の、徳島での原初の記憶を呼び起こして書かれた「南山」がすばらしい。そして駆け落ちした若者との無垢な逢い引きの、<ひりひりした切なさ>が伝わる「眉山」もまた、ふるさとの記憶である。(OM)
瀬戸内晴美は、幸福な少女時代を徳島で送り、東京の女子大へ進学。在学中に結婚した若い学者と北京で戦争を体験し、一児を連れて故郷に戻る。ところが夫の教え子と恋に落ち、出奔。それからは京都、東京の各所でいくつかの恋と転居を繰り返しながら人気作家の道を突き進む。この作品は、敗戦を契機に封建的な因習から解き放たれた、日本女性の生き方を考える上でも重要だろう。
瀬戸内は51歳で突如、出家を断行し、以後、天台宗僧侶、寂聴を名乗る。京都・嵯峨野の庵で、ときに中東の戦地まで薬を届けにボランティアで赴き、岩手県天台寺で青空法話を続けながら、40年もの間、文学の道を極めてきた。
『場所』は、70代後半になった作者が、出家に至る激しい半生を過ごした場所を、もう一度その足でたどって書かれた私小説の傑作だ。とりわけ冒頭の、徳島での原初の記憶を呼び起こして書かれた「南山」がすばらしい。そして駆け落ちした若者との無垢な逢い引きの、<ひりひりした切なさ>が伝わる「眉山」もまた、ふるさとの記憶である。(OM)

翻訳出版に関する連絡先について
株式会社日本著作権輸出センター
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-19-10
サンモール第3マンション201